卵円孔開存 PFO


1. 卵円孔開存と脳梗塞

 卵円孔開存は、右心房と左心房の壁(心房中隔)に開いている孔で、成人の2〜3割にみられます。通常は症状がなく問題となることはありませんが、稀にこの卵円孔開存が脳梗塞や一過性脳虚血発作の原因となることが知られています。足などの静脈にできた血栓が、卵円孔を介して右心房から左心房に流れ、さらに動脈系に流れ出て、血栓が脳に行けば脳梗塞の原因となります。このような脳梗塞は、一般的に「奇異性脳梗塞」と呼ばれています。奇異性脳梗塞は、比較的若い人に多いことも特長です。2019年12月より日本において閉鎖栓デバイスを用いたカテーテルによる治療が可能となりました。日本ではすでに卵円孔開存閉鎖とほぼ同等の治療方法にあたる心房中隔欠損症に対するカテーテル治療が多く行われてきており、非常に良好な安全性が確認されています。

2. どのような方が対象となるか?

・ 卵円孔開存の関与があり得る潜因性脳梗塞の診断基準に合致した患者
・ 適切に施行された抗血栓療法中に上記潜因性脳梗塞を発症した方
・ 原則として、60 歳未満の方
・ (女性の場合)妊娠していない、かつ 1 年以内の妊娠を希望しない方

3. カテーテルによる卵円孔開存閉鎖治療の目的

 この治療の目的は、卵円孔開存を閉鎖することによって、血液の右心房と左心房の交通をなくし、脳梗塞や全身の血栓塞栓症再発予防を期待するものです。卵円孔開存が原因で脳梗塞を発症した可能性のある患者さんでは、脳梗塞の再発予防するために,血液をさらさらにする薬(アスピリン,ワルファリン,新規抗凝固薬など)を使って血栓が作られることを予防する治療が広く行われていました。一般にこの治療は有効ですが,薬を長期間(一生涯)服用する必要があります。卵円孔開存をカテーテル治療で閉鎖することで、内服薬単独による治療よりも脳梗塞の再発の予防効果が高いことが臨床試験で証明されています。

4. どのように治療するか?

 基本的には局所麻酔(ごくまれに全身麻酔)を使います。カテーテルを太ももの付け根の静脈(大腿静脈)から挿入し、血管の内部をいわば通り道にして、心臓まで卵円孔の閉鎖に使用する閉鎖栓を運びます。動脈は使いません。治療に用いる閉鎖栓は、金属製の細いワイヤーをメッシュ状に編み込んだ傘のような構造になっています。素材は、ニッケル・チタン合金(ニチノール)で、形状記憶合金・超弾性合金と呼ばれる金属で、冠動脈ステント・血管フィルターをはじめ様々な医療機器の材料として採用されています。現在日本では、下記の閉鎖栓(Amplatzer® PFO Occluder)が使用できます。治療は血管造影室で行われます。X線装置、ときには心エコー装置(経食道心エコー装置など)で心臓を観察し、心電図モニターで心拍数などを監視しながら行います。適切な大きさの閉鎖栓をケーブルに取り付け、心房中隔まで運び心房中隔を挟み込む様に留置して卵円孔を閉鎖します。閉鎖栓の位置をX線装置、心エコー装置などで慎重に確認し、位置が適切であると判断されたら閉鎖栓をケーブルから取り外し終了となります。使用した閉鎖栓は、そのまま心臓の内部に留置されます。 治療にかかる時間は患者さんの状態によって異なりますが、通常は1時間前後です。 治療後は一定時間ベッドの上で安静にしていただいた後、翌日から歩くことが可能です。入院中に血液検査、胸部レントゲン検査、心電図検査、心エコー検査を行います。経過が順調であれば数日後には退院いただけます(基本的には3泊4日の予定です)。退院後は定期的に外来でその後の様子を拝見いたします。


Amplatzer® PFO Occluder(閉鎖栓)

Amplatzer® PFO Occluderの留置手順

5. 当院の特色

 1.この治療の施行にあたっては、カテーテル治療専門医、脳卒中専門医、不整脈専門医、心臓血管外科専門医、心エコー専門医やコメディカルスタッフからなる「Brain-Heart Team(ブレインハートチーム)」を形成しており、各専門家たちで患者さんの治療の効果・安全性を十分議論しています。当院は日本の中心となる大学病院であり、先進的な治療や各診療科の十分な体制を備えており、様々な患者さんに対して集学的アプローチを行った医療を提供できることが強みです。
 2.当院では、本治療と非常に近い治療法である経カテーテル的心房中隔欠損閉鎖術をすでに350例以上経験しており、本治療でも同様に十分な安全かつ効果的な診療体制を提供することができます。


「PFO閉鎖術のビデオ」


「潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き」

(日本脳卒中学会、日本循環器学会、日本心血管インターベンション治療学会)


「問い合わせ等連絡先」

・治療の内容に関して
慶應義塾大学循環器内科 医師 金澤英明、木村舞、三浦光太郎
住所:〒160-8582 東京都新宿区信濃町35
TEL: 03-5843-6702(医局)
専用フォーム: 「Contact Us」(http://www.keio-cardiology-cathlab.com/contact)
*患者さま個人からのお電話、FAXでのご相談は受け付けておりませんので、ご了承願います。
・外来受診(予約)に関して
慶應大学病院 TEL:03- 3353-1257(外来初診受付)/ FAX: 03-5843-6167(専用フォームあり)
http://www.hosp.keio.ac.jp/iryo/syokai.html